神経科学中級

神経可塑性と恋愛

Neuroplasticity

脳が経験や学習によって構造と機能を変化させる能力。人間関係のパターンも脳の配線を変えられる

夫婦同棲交際中

4コマまんがで理解する「神経可塑性

神経可塑性を恋愛シーンで解説する4コマまんが
Michael MerzenichNorman Doidge

定義

脳が経験・学習・環境変化に応じてシナプス結合の強度、神経回路の構造、さらには灰白質の体積を変化させる能力。ヘブの法則(「一緒に発火するニューロンは結合を強める」)を基盤とし、長期増強(LTP)と長期抑圧(LTD)のメカニズムで実現される。

メカニズム

神経可塑性の基本メカニズムはヘブ則に基づくシナプス可塑性である。2つのニューロンが同時に活動すると、その間のシナプス結合が強化される(長期増強: LTP)。逆に、非同期の活動は結合を弱める(長期抑圧: LTD)。分子レベルでは、NMDA受容体がカルシウムイオンの流入を検出し、CaMKIIやCREBなどのシグナル分子を活性化して遺伝子発現を変化させ、新しいシナプスの形成や既存のシナプスの構造変化を引き起こす。Merzenichの研究では、指の使用パターンを変えたサルの体性感覚皮質が数週間で再マッピングされることを示した。成人においても海馬での神経新生(新しいニューロンの生成)が確認されており、運動・学習・豊かな環境が神経新生を促進する。

代表的な実験

サルの体性感覚皮質の再マッピング

1983

Merzenich, M.M., Kaas, J.H., Wall, J.T., Nelson, R.J., Sur, M., & Felleman, D.J.

手続き: 成体サルの手の正中神経を切断し、数ヶ月後に体性感覚皮質の手の領域のマッピングを微小電極で記録。また、特定の指を集中的に使用するトレーニングを行い、皮質表象の変化を追跡
結果: 神経切断後、隣接する無傷の神経の皮質表象が、元の正中神経の領域に拡張した。トレーニングした指の皮質表象面積は数倍に拡大。成体の脳でも大規模な再編成が起こることを実証

Neuroscience, 8(1), 33-55

ロンドンタクシー運転手の海馬研究

2000

Maguire, E.A., Gadian, D.G., Johnsrude, I.S., Good, C.D., Ashburner, J., Frackowiak, R.S.J., & Frith, C.D.

手続き: ロンドンの資格試験(The Knowledge: 2万5千の通りを暗記)に合格したタクシー運転手16名と対照群の海馬をMRIで構造比較。経験年数との相関も分析
結果: タクシー運転手は海馬後部の灰白質体積が対照群より有意に大きく、経験年数と正の相関があった。空間ナビゲーションの集中的な使用が海馬の構造的可塑性を駆動することを示した

Proceedings of the National Academy of Sciences, 97(8), 4398-4403

エビデンスの強さ

Maguire et al. (2000) のタクシー運転手研究では、海馬後部の体積と運転経験年数の相関はr = 0.6。Draganski et al. (2004) のジャグリング学習研究では、3ヶ月の訓練で運動関連皮質の灰白質が有意に増加し、訓練停止3ヶ月後に部分的に退縮した。

恋愛での活用パターン

コミュニケーションの癖の改善

1日3回、パートナーへの感謝や肯定を意識的に言葉にする(21日間チャレンジ)

ヘブの法則により、繰り返し使われる回路が強化される。肯定的なコミュニケーション回路を意図的に強化することで、自動的なパターンとして定着する

感情反応パターンの変容

怒りのトリガーに対して新しい反応を「リハーサル」する(脳内で望ましい対応をイメージトレーニング)

運動イメージ訓練が実際の運動と同じ脳領域を活性化するように、対人場面のメンタルリハーサルも関連する神経回路を強化する

失恋からの回復

元パートナーに関連する場所・音楽・物を一時的に環境から除去し、新しい体験を積極的に取り入れる

神経可塑性は「使う回路が強化され、使わない回路が弱化する」。旧い連合回路への入力を減らし、新しい回路を活性化する環境を設計する

やりがちな間違い

即時の変化の期待

「神経可塑性があるんだから、今日から変われるはず」と非現実的な期待を持つ

構造的な神経変化には数週間〜数ヶ月の反復が必要。即時の変化を期待すると失敗体験が挫折感を生む

パートナーへの変化の強制

「脳は変わるんだから、あなたも変われるはず」と相手に変容を要求する

神経可塑性は本人の主体的な反復と動機づけがあって初めて機能する。外部からの強制では持続的な変化は生まれない

ネガティブな可塑性の無視

不健全なパターン(相手の顔色をうかがう、怒りで制御する等)を反復していることに気づかない

可塑性はポジティブにもネガティブにも働く。悪習慣の反復は不健全な回路を強化する。「何を反復しているか」の自覚が重要

適用の限界

加齢に伴い神経可塑性は低下するが消失はしない。臨界期(言語習得や視覚発達)を過ぎた後の可塑性は、注意・動機づけ・神経調節物質(アセチルコリン、ドーパミン等)の関与が必要になる。慢性ストレスとコルチゾールの持続的上昇は海馬の可塑性を阻害する。逆に、運動はBDNF(脳由来神経栄養因子)を増加させ可塑性を促進する。外傷性脳損傷後の回復にも可塑性が関与するが、損傷の程度と部位によって限界がある。

参考文献 (2件)
  • Merzenich, M.M., Kaas, J.H., Wall, J.T., Nelson, R.J., Sur, M., & Felleman, D.J. (1983). Topographic reorganization of somatosensory cortical areas 3b and 1 in adult monkeys following restricted deafferentation. Neuroscience.
  • Holtmaat, A. & Svoboda, K. (2009). Experience-dependent structural synaptic plasticity in the mammalian brain. Nature Reviews Neuroscience.

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