記憶の再固定化と恋愛
Memory Reconsolidation
想起された記憶は一時的に不安定になり書き換え可能になる。恋愛のネガティブな記憶の更新と関係修復に関わる
4コマまんがで理解する「記憶の再固定化」

定義
一度固定化された記憶が想起により再活性化されると一時的に不安定(ラビール)な状態になり、タンパク質合成を必要とする再固定化プロセスを経て再び安定化する現象。この再固定化ウィンドウ(約4〜6時間)内に新たな情報が組み込まれることで、記憶内容が更新される。
メカニズム
代表的な実験
ラットの恐怖記憶再固定化阻害実験
Nature, 406(6797), 722-726
ヒトの恐怖記憶の再固定化更新
Nature, 463(7277), 49-53
エビデンスの強さ
Nader et al. (2000) ではアニソマイシン投与群の恐怖反応は非投与群の約20〜30%まで減弱。Schiller et al. (2010) ではリトリーバル群の恐怖反応の自発的回復はほぼゼロ(d > 1.0)で、この効果は1年後も維持された。ただしAgren et al. (2012) のfMRI追試では効果が再現されたものの、Kindt & Soeter (2013) ではプロプラノロール(β遮断薬)による再固定化阻害の効果サイズに大きなばらつきがあった。
恋愛での活用パターン
過去の傷つき体験の修復
信頼できるパートナーや友人と安全な環境で過去の恋愛のトラウマについて語り、新たな視点や理解を加える
カップルの過去の対立の振り返り
落ち着いた状態で過去の喧嘩を振り返り、「あの時お互いどんな気持ちだったか」を共有し合う
失恋記憶の意味づけ直し
失恋から十分な時間が経った後、「あの経験から何を学んだか」を日記に書き出す
やりがちな間違い
トラウマ記憶の無理な想起
「記憶を書き換えられるから」と深いトラウマを専門家なしに無理に想起する
反芻による記憶の強化
嫌な記憶を何度も繰り返し想起してネガティブな感情に浸る
記憶消去の期待
「この方法で嫌な記憶を消し去れる」と期待する
適用の限界
再固定化が起動するためには「予測誤差」(想起時に予期しない要素が存在すること)が必要であり、完全に予想通りの想起では再固定化が起動しない場合がある(Pedreira et al., 2004)。記憶の強度・古さ・想起回数により再固定化の起動閾値が変化する。非常に強固な記憶や反復想起された記憶は再固定化に対する抵抗性が高い。また、ヒトでの薬理学的介入(プロプラノロール等)の効果は動物実験ほど明確ではなく、臨床応用には更なる研究が必要。トラウマ記憶の場合、不適切な想起が再トラウマ化のリスクを伴う。
参考文献 (2件)
- Nader, K., Schafe, G.E., & Le Doux, J.E. (2000). Fear memories require protein synthesis in the amygdala for reconsolidation after retrieval. Nature.
- Schiller, D., Monfils, M.H., Raio, C.M., Johnson, D.C., LeDoux, J.E., & Phelps, E.A. (2010). Preventing the return of fear in humans using reconsolidation update mechanisms. Nature.
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